まんどりるンパッパ

嘘をつかなくても生きられる生活を目指して。

ハラキリ

あのねぇ、ハラキリって言うけどね、腹を切って即死するわけじゃないんだぜ。ハラキリには介錯人と言うのがいてね、その男が切腹した男の首を斬るわけなんだ。

だがね、斬ると言っても、斬り落とすわけではないよ。皮一枚残して首が胴につながっていなくちゃならない。

そのためには、首に四分の三くらい斬り込んで、あと刀をスッと手前に引く、引きながら斬っていって、適当なところで止めるわけなんだな。

もしも首を斬り離しちゃうと、これは打首ということになって、これは罪人に対する扱いをしたことになるからーーハラキリって言うのは処刑じゃないんだよ、自決なんだーーだから打首にしてしまった介錯人が今度は腹を切らなきゃならないことになる

いや、大変なことなんだよ、これは。

それに、介錯のタイミングが難しい。これは腹を切る人の度胸によって違ってくるわけだ。つまり、この切腹する人の勇気の度合いをランクづけるのも介錯人の一つの大きな役割なんだ。

一番臆病な人には扇子腹と言って、刀を乗せる三宝に扇子を置く。そして三宝をうんと遠くに置くわけだ。切腹する奴が扇子に手を伸ばそうとして体を前に傾けた時、首を斬ると言うことになる。

その次は、今と同じだが扇子が刀になる。その次は、刀に手をかけたときに斬る。その次は、腹に突き立てようとした時に斬る。

それから、突き立てた時に斬るのがあり、突き立てて横に掻き切った時に斬るのがあり、一番偉いやつは、一文字に掻き切って、それからそれを胸のほうへ切り上げ、刀を懐紙で拭って鞘に納め、それを三宝に返し、居ずまいを正して、どうぞ、と声をかけた時に斬るんだなぁ。

そのほかに自決というのもあるよ。これは介錯人のいない場合だ。すなわち、切腹した人間が自分で喉を突いて死ぬ、と言うことだね。

この場合、特に注意してもらいたいことは、あまり腹を深く切ってはならぬ、と言うことだ。腹を切りすぎるとショックと出血が大きすぎて、喉を突く力が消え失せてしまう。即ち、そのままの姿勢で長く苦しむ、ということになって、これは見苦しいことであるとされている。

だから、自決の際には、くれぐれも、軽く皮だけを切る、という心構えを忘れないでいただきたい。